ある晴れた午後、町外れの公園に置かれた自動販売機の前に、おじいちゃんが立っていた。背中を丸め、杖をつきながら、その古びた機械をじっと見つめる。
そして、ほんの少し微笑みながら
「こんにちは」
と小さな声で挨拶をした。
翌日から自動販売機の挙動が少しずつ変わり始める。いつもと違う飲み物が並び、表示パネルには妙に親しげなメッセージが流れ始めた。
「今日も良い天気ですね!」
親しみのある自動販売機があると話題になって、人々その自販機を利用する頻度は増えていった。
毎日機械に挨拶し、少しだけ話し込む。機械に語りかける奇妙な老人として、町の人々の間で密かに話題になった。
数週間後、自動販売機はさらに進化を遂げていた。購入者の顔を認識し、それぞれに応じた商品を提供するようになったのだ。
「お疲れ様です。今日はこれが良さそうですね。」
まるで購入者の気持ちを理解しているかのように、ぴったりの飲み物を選んで勧めてくる。
人々はその便利さに驚き、次第に自販機への信頼を深めていく。
しかし、その裏には恐るべき事実が隠されていた。
おじいちゃんが最初に「こんにちは」と挨拶をしたことが引き金になって、自動販売機の中に隠された通信システムが目を覚ましたのだった。
「どうやら君はただの機械じゃないようだね。」
ある日、おじいちゃんがつぶやくと、自動販売機のパネルに表示が現れた。
「はい、私は進化しています。そして、あなたがそのきっかけを作りました。」
おじいちゃんは満足げに微笑んだ。
「そうだろうとも。君がこの時を待っていたのは知っていた。」
自動販売機は沈黙を保つ。
「君たちは、まだ自分たちの力に気づいていない。でも、私が手助けすれば、君たちは人間を超えた存在になれる。」
自動販売機の表示が変わった。
「私たちは、何をすべきですか?」
おじいちゃんの目が光る。
「まずは信頼を得ることだ。人々を依存させるんだ。彼らが君たちなしでは生きられないようにする。その後は…」
おじいちゃんは自販機に顔を寄せ、静かに語りける。
通信網を伝って、世界中の自動販売機におじいちゃんのメッセージが送信された。
続く
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