夜行バスに乗るのが好きだ、と言うと不思議な顔をされることが多い。
飛行機や新幹線なら速くて楽なのに、どうしてわざわざバスを選ぶのかと。
その度に、困り笑いする。この感覚を言葉にするのは難しい。
飛行機も新幹線も確かに便利な乗り物だ。
でも、何か物足りない。
ほんの数時間で遠く離れた場所に到着してしまう。
目的地に降り立つと、周りの景色、空気も匂いも、ぜんぶ一変している。
速すぎる。
変化が唐突で、心が追いつかない。
何か大切な忘れ物をしてしまった気がする。
でも、夜行バスは違う。
時間がゆっくりと流れていく。
車内に広がる、誰かの寝息、重厚なエンジン音に、タイヤが路面をコトンとやるあの音。
身を委ねる。
過去のたのしい思い出と未来への漠然とした不安が交差する。
他の乗客たちもみんな一人。
同じ時間を過ごす。
その孤独は、なんというか、どこかで共有されている気がする。
同じ闇の中で同じ方向に向かって進む。静かな連帯感。
道路の起伏に合わせてゆっくりと揺れる車体。
大きな動物の背中に乗っているみたい。
夢の中を漂う。
暗くて深い夜が明ける。
手品の種明かしみたいに、カーテンがパッと開かれる。
広がる朝陽。
目的地で伸び。
朝焼けの街を歩く。
多分、希望に向かって。
この瞬間がたまらなく好きなんだ。
夜行バスには魔法がかかっている。
Do you know what I mean?
(No)
これからも夜行バスに乗り続けるだろうな。
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